一言ご挨拶
ご来場ありがとうございます。いつも思うのですが、個展といういわば作家が身
勝手に設けた機会に足をお運びいただき、感謝の念に絶えません。
私が小淵沢に移住してからもう9年目に突入、この間私は相も変わらずに八ヶ岳
界隈の風景を描き続けています。と言いましても、当会場でご覧いただけますよ
うに、ときとしてお隣の信州に足を伸ばし、海への憧憬が募って海辺まで遠征し
「おわら風の盆」への未練も断ち切れず・・・と、私の絵心は結構あちこちに飛び
火しているのも事実です。私の知り合いには、ある田舎を本拠地として5年間風
景を描き続け、"もうここは卒業"と言って都会に退散してしまった御仁がいまし
た。しかし世間には一生富士山をモチーフとして追い求めている画家もいます
し、生涯最上川を描き続けた画家もいます。そうした先達を引き合いに出すのは
憚れるのですが、私には八ヶ岳界隈を一生のフィールドと決め込むほどの覚悟
があるわけでなく、かと言って卒業などと簡単に見切ってしまうほどの性急さが
あるわけでもありません。風景はそこに注ぐ眼差し如何で、如何様にも姿を変
え、奥行きを深めてくれるものだと、年々思いを強くしてはいます。それに・・・た
まに当地と異なる風土を感じながら絵を描く楽しみはまた格別なものです。つま
り何を言いたいかといえば、適当な浮気心もまた絵心を触発しリフレッシュさせて
くれるものではないかということです。
もう一つ書き加えますと、年とともに感興を覚える対象とか、描きたいと思う風景
が変わってきているという点です。特にここ2、3年、私は山間の集落に目が向く
ようになってきて、今回の展示作でも相当数がこうした集落をモチーフとしたもの
となっています。遡って移住当初は山や森など、自然一辺倒の風景ばかりを追
求していたことを思うと、隔世の感もあります。自然の中に宿る生活の温もりと
か、日本の原風景の持つ衰退美のようなものが、いつの間にか私を大きく捉え
るようになってきたのは、年齢による心境変化なのか、或いは例の浮気心故な
のか。いずれの要因であるにしても、それは絵心を活性化させてくれる大事な要
素と勝手に解釈し、これからも面白く描き続けてゆければと思っています。
最後までお読み頂きありがとうございました。引き続きごゆっくりご覧下さい。
2013年11月 栗原成和
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