ご挨拶
ご来場いただき、心よりお礼申し上げます。
小淵沢に移住して12年、この間私は絵を描いたり教えたり、地元や東京で個展を開催したりし
てきました。しかし、まだ一度も甲府でお目見えの機会を得ないままでしたので、今回の個展は
県民の皆さまはじめ、広く私の絵に接していただける機会として、最新作に加えこれまで描きた
めた作品から見繕った計45点を展示しました。すべて透明水彩による風景画で、北杜市を中
心にした峡北の風景が大半を占めています。
こうして並べてみると、改めて覚える感慨があります。一つは、私の活動の舞台となっている八
ケ岳山麓界隈が、如何に四季の光彩に満ち満ちていることか、その認識を新たにすることであ
り、もう一つは、風景によって触発される絵心の中身が、明らかに経年変化を来しているという
点であります。
四季の素晴らしさは日本固有の美質ですが、この界隈に特筆すべき魅力は、日本有数の高
山が持つ峻厳さと、その裾野の牧歌的味わい、麓では昔ながらの田園風景や歴史を偲ばせる
山間の集落など、それらが相俟った多様な自然と風土を創り出している点にあると指摘できるで
しょう。
こうした環境で描いてきた絵を年代順に眺めてみると、移住当初は風景に衝き動かされた感
動が素直に絵に表れていて、我ながら当時が懐かしく思い出されます。年月を経てその感動も
薄まり、モチベーションが低下した分を補ってきたのは、いい意味でも悪い意味でも作為という
要素と言えるでしょう。こんな絵にしたい、構図は、色調は、といった平たく言えば構想であり作
戦であります。それは対象との対話に始まり、年齢的な要素も加味されて作画に繋がってゆくも
のです。そうした作為がさりげなく絵に隠されている風情・・・これを枯れた味わいとして、ひとつ
の目指すべきところとするなら、どうも自分の絵はそんな風味が感じられません。これは憂うる
べきことか、或はまだ先が長いと思うべきか、しばし腕組みをし、首をかしげるこの頃でありま
す。
繰り言はこれくらいにして、どうか皆さま、引き続きゆっくりとご覧いただきたいと思います。
2017年11月 栗原 成和
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